栗田工業株式会社(本社:東京都中野区、社長:江尻 裕彦、以下「クリタ」または「当社」)は、排水処理装置に組み込むことを想定し開発を進めている微生物燃料電池について、実排水を対象とした実規模サイズセルによる発電実証試験(以下「本実証試験」)を本年11月に実施し、発生させた電力での電気機器の連続稼働の確認と、実用化に向けたさらなる知見を得ることができました。
微生物燃料電池は、排水中の有機物を分解した際に電子を放出する能力をもつ「発電菌」と呼ばれる微生物の働きにより、従来汚泥となっていた有機物を直接電気エネルギーに変換できる技術を活用する装置で、世界中の研究機関や企業で実用化に向けた研究開発が進められています。この装置は、排水処理にともなうエネルギー消費やCO2排出削減へ寄与するだけでなく、排水・廃棄物から電力を生成し利用する“エナジーハーベスティング(環境発電)”の用途も期待されており、工場などの大規模拠点に加え、飲食店などの一般消費の場や災害時の活用が見込まれます。
クリタにおいても、長く培ってきた水処理に関する技術や知見を活用・応用し、微生物燃料電池の開発に取り組んでいます。2022年に実施した合成排水を対象とした排水処理の実証試験では、微生物燃料電池セルの実規模サイズへのスケールアップに成功しています(*1)。本実証試験は、エナジーハーベスティング用途での実用化に向けて、微生物燃料電池により実排水から得られた電気エネルギーのみでの電気機器の連続稼働を目的に実施したものです。
本実証試験は、本年11月上旬の5日間、長崎県西海市のキャンプ場にて、ニシム電子工業株式会社(本社:福岡県福岡市)の協力のもと、し尿を浄化して水洗用水として循環利用でき、被災地支援にも活用されている同社の自己処理型水洗トイレ「TOWAILET」(*2)に、当社で開発中の微生物燃料電池セルを組み合わせて行いました。本実証試験では、TOWAILETで処理されているトイレ排水の一部を微生物燃料電池の実規模サイズセルに供給し発生させた電力により、それぞれ単三電池3本で動作するデジタル時計とLED電球計60個からなるイルミネーションの稼働を試みました。
その結果、試験期間を通じて、排水中の有機物除去量あたり0.6~0.8 Wh/g-CODCrの電気エネルギーが得られ、これら電気機器の連続稼働に成功しました。また、発電セルの改良により、試験期間中のセル容積あたりの発電量は最大で550 W/m3に達し、2022年時点の2倍以上に向上させることができました。今後、本実証試験で確認された電気機器の連続稼働を踏まえ、災害時などの一般向け電源としての活用を模索するとともに、工場などの排水処理用途でも実排水を対象とした長期実証試験などを通じ、本技術の特長を生かしたさまざまな用途での実用化を目指し、技術開発を進めていきます。
クリタグループは、創立以来培ってきた「“水”に関する知」を駆使し、お客様と社会に「新たな価値」を提供するソリューションや新規事業などのイノベーションの創出を通じた、持続可能な社会実現への貢献を引き続き目指していきます。
以上
注)
*1 : 2022年1月20日付当社ニュースリリース「「微生物燃料電池」を用いた排水処理の実現に向け、微生物発電セルのスケールアップに成功」参照。
*2 : 製品情報は、ニシム電子工業株式会社ウェブサイト「トワイレ」ページを(https://www.nishimu-products.jp/towailet)参照。
<参考写真>
左写真:本実証試験実施現場概観
右写真:微生物燃料電池による電気機器稼働のようす